その日も一諸にジムを出て,
ドトールで一休みしていた。

客の数が少ない日だった。
俺達は２Fの奥のコーナーに席を陣取り、
いつものようにたわいもない話をしていた。
周りは空席だらけ。
ほとんど人がいなかった。

話が一段落し、
俺が水を飲みながら、近くにいた唯一の客が
１Ｆへの階段を降りていき、いよいよ俺達だけになったこと
を確認していた時、

突然、ジム男が言った。

「俺さ、同性愛者なんだよね。」

はっきりと聞こえた。
すごくまっすぐな言い方だった。

言われた俺は、

（はっ！？）

（？？？？？。。。。。。）

（同性愛者って。。。。。）

（えーっと。。。。。。。）

唐突すぎると、なぜか動きが止まる。

でその後、なぜかこぼれる笑顔。

その笑顔を、ジム男が無表情で見ている。

俺は、必死に立て直した。

こぼれそうな笑顔を引っ込めて、

出てきた言葉が

「へー、そうなんだ。」

それで終わった。

で、沈黙。

水を何回も飲んだ。
たびたび、姿勢を変えた。
それでも、沈黙。

俺はどう話しを続けたらいいか、分らなかった。
こういう時はどう応えたらいいんだろう。
たしなみのない自分に困り果てる俺。

ジム男も何も言わない。
俺と同じように、水を飲んだり姿勢変えて座りなおしたり。

そんなジム男に俺は少し腹がたつ。

何かないのか。
続きの話でもいいし、違う話題でもいい。
とにかく、何かしゃべれよ！

。。。。。。

どうすることもできない。

長い沈黙の後、
結局、そろそろ行こうかってことになって、
その日はそのまま別れた。

一人になっても
俺はそのことをすぐに頭の隅に追いやり、
何も考えないようにした。

人のそういうこと、あれこれ思わないことだ。

次にジムで会った時、
俺達は今までと同じように話し、
一緒にトレーニングをした。

ジムが同性愛者でも、
そんなことは関係ない。
そんなことで俺は態度を変えない。
差別はしない。。。。。と思いたい。

でも、やっぱ気になる。

隅に追いやったつもりが、
頭の中でどんどん大きくなる。

なんでジム男は俺に告白したんだろう。

同性愛者ってことは、
あいつ、男とセックスしてんの！？
実はオカマ？カバちゃん？

考えていることがすぐ顔に出たり態度に現われちゃうやつ。
それが俺。
ジムで会うと、どこがギクシャクするようになったジム男との関係が嫌で、
ある日、俺は思い切って聞いてみた。

「同性愛の世界ってどんな感じ？」

ジム男はいろいろと話してくれた。
１０代の頃、自分はそうかもしれないと気づいて、
首をうなだれながら途方にくれたこと。
高校の時に必死に彼女を作って付き合って、
ＳＥＸもしたけど、自分がゲイであることの再確認にしかならなかったってこと。
大学の時に初めて新宿の二丁目（同性愛者の町）に行ったこと。
隠して生きることの辛さ。
他人との距離感。
今後どう生きるかっていう課題。

同性愛者は自分で選らんでそうなった分けじゃない。
生まれつきなんだって。
誰でも生まれつき同性に対する性的な嗜好は持っていて、
その％が多い人が同性愛者だったり
バイセクシャルだったりするって。
でもその％が少ないと、そのことに一生気づかないで終わる人もいるって。

男と女の二つしか無い性の分け方自体がおかしい。
ほとんどの人は、その枠にはあてはまらない。

話しを聞いて俺は落ち着いた。
いつものジム男が戻ったような気がした。
それからは、前と同じように話すことができるようになった。

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